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障害者雇用代行は「やってはいけない」のか|批判の中身を事実で検証する

検討中に必ずぶつかる問い

農園型やサテライトオフィス型の支援サービスを調べていると、 「障害者雇用代行」「雇用率のロンダリング」といった強い言葉に行き当たります。

導入を検討している担当者にとって、これは避けて通れない問いです。 社内で説明を求められたときに答えられなければ、稟議は通りません。

この記事では、批判の中身を一つずつ分解し、 どこまでが事実で、どこからが評価の問題なのかを整理します。

まず事実:違法ではありません

厚生労働省は、農園やサテライトオフィスなどの就業場所を提供する いわゆる「障害者雇用ビジネス」について実態把握を行っています。

把握状況(令和7年11月末時点)

項目 内容
事業者 46事業者(46法人)
就業場所 223カ所を把握(うち88カ所を訪問)。うち農園153カ所、うちサテライトオフィス58カ所(原文は個別に「うち」と書いており、合計は示されていません)
利用企業 延べ1,803社以上。このうち社名を把握したのが364社で、さらにそのうち82社について労働局等による事業所訪問等を実施
結論 明らかに法令に反する事例は確認されていない(令和5年4月時点)

同時に、次のようにも整理されています。

  • 障害者雇用促進法の趣旨に照らして疑義が残る事例がある
  • 一方で、能力開発・向上につながる事例もみられる

数字を引用するときの注意

「82社」は利用企業のうち82社という意味ではありません。利用企業は延べ1,803社以上あり、そのうち社名を把握できた364社の中から82社に訪問した、という数字です。社内で説明するときに「利用企業82社を調べた結果」と述べると、実態と違う印象になります。

また「明らかに法令に反する事例は確認されていない」という記述は令和5年4月時点のものです。実態把握そのものは継続中で、把握件数は増え続けています。

「違法だからダメ」でも「問題ないから安心」でもない

行政の見方は、この中間にあります。利用の仕方によって評価が変わるという位置づけです。

したがって「合法だから何をしてもよい」という説明も、「代行は違法だ」という批判も、どちらも事実を正確に反映していません。

批判を3つに分解する

批判1:「雇用率の達成だけが目的化している」

これは評価の問題です。

本社の業務と切り離された場所で、本業と関係のない作業をすることが、 障害者雇用促進法が想定する共生社会の実現に沿うのか、という指摘です。

法令違反ではありませんが、制度の趣旨に照らした疑義として 行政も認識している論点です。

自社がこの批判に耐えられるかどうかは、 「雇用率の数字が埋まればよい」と考えているのか、 「その人の職業能力が向上する状態を作れているか」を見ているのかで分かれます。 これは方式の問題ではなく、運用する側の姿勢の問題です。

批判2:「雇用管理の責任が形骸化している」

これは実務上のリスクとして、行政が明確に指摘している点です。

厚生労働省のリーフレット「障害者が活躍できる職場環境の整備に向けた留意事項」は、 望ましい取組のポイントを9項目(①方針の検討・社内理解 ②職務の選定・創出 ③募集・採用・配置 ④雇用形態・雇用期間 ⑤労働時間・休日 ⑥賃金等労働条件 ⑦勤怠管理・業務管理 ⑧職業能力の開発・向上 ⑨評価、待遇)で構成しています。

このうち、支援サービスの利用を検討する企業がとくに確認すべきなのは次の3項目です。 9項目のうちの3つであって、「行政が示した留意事項が3つある」わけではありません。

項目 内容
⑥賃金等労働条件(最低賃金) 本社から離れた場所を就業場所とする場合、最低賃金の取り扱いに注意が必要。サテライトオフィス等が独立した事業場に該当しない場合、適用される地域別最低賃金はその所在地ではなく、直近上位の支社・営業所または本社などの所在地のものになる
④雇用形態・雇用期間(無期転換ルール) 無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましくない。有期契約の満了前に使用者が更新年限や回数の上限を一方的に設けても、雇止めが合理的な理由を欠くものとして無効とされる場合がある
⑦勤怠管理・業務管理(雇用管理責任) 本社から離れた就業場所においても、利用企業が雇用主としての雇用管理責任を十分に果たすため、業務管理体制の確保や、個々人の特性を踏まえた支援担当者の配置に留意すること

在籍型出向で受け入れる形は、職業安定法の論点になります

同じリーフレットは、④雇用形態・雇用期間の項でこう述べています。「在籍型出向の形態は、労働者供給に該当します。労働者供給を『業として行う』ことは職業安定法第44条により禁止されています」。ただし能力開発の一環として行う場合や技術指導の実施などの目的があるものは、基本的には「業として行う」ものではないと判断されるとされています。

そのうえで、在籍型出向で他社の雇用する障害者を受け入れて事業を行う事業者や、障害者を雇い入れてすぐにそうした事業者へ出向させる企業の例について、「単に障害者雇用率の達成のみのための形式的な雇用ではないかという指摘を受けることや、場合によっては労働者供給に該当することとなる可能性も懸念される」と明記されています。

検討中のサービスが在籍型出向を伴う形式であれば、ここは「評価の問題」ではなく法令の適用範囲の問題です。契約形態を必ず確認してください。

サービスを使っても、雇用主は自社のままです

農園型・サテライトオフィス型のいずれであっても、障害者を雇用するのは利用企業自身です。サービス事業者は就業場所と支援を提供する立場であり、雇用主ではありません。

つまり「代行」という言葉は、実態を正確に表していません。外部化できるのは就業場所と日常の支援であって、雇用主としての責任ではありません。ここを誤解したまま導入すると、行政が指摘しているリスクに直面します。

批判3:「キャリア形成につながらない」

ここについては、行政の姿勢は中立ではありません。

前掲のリーフレットは、⑧職業能力の開発・向上の項でこう述べています。

「定型的な業務をコツコツ行うのが得意」といったステレオタイプのような企業側の思い込みにより、 ご本人の希望等を踏まえず、雇用以降、同一部署、単一業務に配置し続けることは、 中長期的なキャリア形成の視点が十分とはいえません。

実態把握では疑義が残る事例と能力開発につながる事例の両方がみられたとされており、 サービスや運用によって差があることは事実です。 ただし「同じ場所で同じ作業を続ける」形そのものについては、 行政は望ましくない側として名指ししています。 「事業者によりけり」で済ませられる論点ではありません。

検討時に確認すべきなのは、次の点です。

  • 業務の内容が数年間まったく変わらない設計になっていないか
  • 評価と処遇の仕組みを自社で運用できるか
  • 本人が希望した場合に、本社業務や他の職務へ移る道があるか

では、使うべきではないのか

「使うかどうか」ではなく「どう使うか」が問われています。

行政の結論は「違法ではないが、利用企業が責任を果たしているかが問われる」というものでした。 これを裏返すと、次のようになります。

批判に耐えられない使い方 批判に耐えられる使い方
雇用率の数字が埋まればよいと考えている 職業能力の向上を目標に置いている
本社に担当者を置いていない 本社側の責任者が決まっており、定期的に就業場所を訪問している
評価も処遇も事業者任せ 自社の人事制度の中で評価・処遇を運用している
契約したら以後は関与しない 業務内容と本人の状況を定期的に見直している

自社で切り出せるなら、そのほうが批判は生じません

そもそも社内で業務を切り出して直接雇用できるなら、この論点自体が発生しません。「任せる仕事がない」という理由で支援サービスを検討している場合は、その前に業務の切り出しを試す価値があります。

方法は職務の切り出し方で解説しています。JEEDが示す3つのモデルを使うと、「一人分の仕事がない」という壁は越えられることがあります。

稟議で説明するときの整理

社内で説明を求められた場合、次の順で話すと論点が噛み合います。

  1. 法令違反ではない — 行政の実態把握で、明らかに法令に反する事例は確認されていない(令和5年4月時点)
  2. ただし雇用主は自社である — 責任は外部化できない
  3. 行政が示した9項目の留意事項のうち3つ(最低賃金・無期転換・雇用管理責任)が、 とくに利用企業側の責任に関わる
  4. 在籍型出向を伴う形式なら、職業安定法第44条の論点がある — 契約形態を先に確認する
  5. したがって、体制を用意したうえで使う — 本社側の担当者、訪問頻度、評価の仕組みを決める
  6. その体制を用意できないなら、導入すべきではない

この記事のまとめ

  • 厚生労働省の実態把握では明らかな法令違反は確認されていない(令和5年4月時点)
  • ただし疑義が残る事例と能力開発につながる事例の両方がみられている
  • 「代行」という言葉は不正確。雇用主は利用企業のままで、責任は外部化できない
  • 行政が示した留意事項は9項目。そのうち最低賃金・無期転換・雇用管理責任の3つが、 とくに利用企業側の責任に関わる
  • 在籍型出向の形態は労働者供給に該当し、業として行うことは職業安定法第44条で禁止されている。 契約形態によっては法令の適用範囲の問題になる
  • 同一部署・単一業務に配置し続けることは、行政がキャリア形成の視点が十分といえないとしている
  • 問われているのは「使うかどうか」ではなく「体制を用意して使えるか」
  • 業務を自社で切り出せるなら、この論点自体が発生しない

各サービスの内容と運営会社の情報は 支援サービス比較一覧で、 方式の違いは農園型とサテライトオフィス型の比較で確認できます。

出典

本ページの制度に関する記述は、以下の公的機関の資料を確認したうえで作成しています。 制度は改正されることがあるため、実務判断の際は必ず出典元の最新の内容をご確認ください。

  1. いわゆる障害者雇用ビジネスに係る実態把握の取組について(労働政策審議会障害者雇用分科会 第136回 参考資料3)(厚生労働省/確認日:2026年9月7日)
  2. 障害者が活躍できる職場環境の整備に向けた留意事項(厚生労働省/確認日:2026年9月7日)
  3. いわゆる障害者雇用ビジネスに係る実態把握の取組について(労働政策審議会障害者雇用分科会 第128回 参考資料3)(厚生労働省/確認日:2026年9月7日)
  4. 平成29年度 障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表等について(厚生労働省/確認日:2026年9月7日)